オピニオン・コラム


タバコ問題
WHOタバコ枠組条約と政治家の役割


2004年:タバコ問題のターニングポイント

 市会議員当時から"タバコからこども守る"という観点からタバコ問題をとりあげてきた国会議員として初めて臨んだ衆議院委員会(外務委員会)でWHOタバコ規制枠組条約の批准を決める現場にも立ち会えたことはおおきな喜びであり、これからの政治活動にとっても追い風となりました。ただ「WHOタバコ規制枠組条約」は一政治家の主張や理念といった次元にとどまらず、ある意味「今後日本がどういう国をめざすのか」という本質的な部分にかかわってくる問題のようにおもえます。民主党の国会議員の立場から申し上げると「タバコ問題」は"政権交代"の争点となる問題、有権者の皆さんが投票するときの"判断基準"にもなる大きな問題だと考えています。

未成年喫煙

 受動喫煙も勿論おおきな問題ですが、ここでは未成年者の喫煙からたばこ問題を取り上げて述べたいとおもいます。こどもを中心に据えた私のタバコ問題におけるスタンスは、WHOタバコ枠組条約との兼ね合いで、結果として受動喫煙の解決にも繋がると考えています。喫煙と飲酒はこどもが非行に走りさらに大きな犯罪へと向かう入口です

 まず喫煙したこどもを、ともかく地域ぐるみでおとなが諭すことが一番大切ですが、違法行為をしたこどもを警察が補導することもやむをえないと考えます。ただタバコを吸ったこどもを補導するのであれば、こどもにタバコを売ったおとなに留まらず、タバコを生産した企業も製造者責任を問われてしかるべきではないでしょうか。(こどもはまだ自分で判断できないということから未成年として選挙権も与えていないのですから、売った側、生産した側の連座制もあってよいのではないでしょうか)

 未成年の喫煙は法律で禁じられています。にも関わらず日本では、こどもがタバコを手にできる環境があまりにも放置されています。鳥取大学尾崎米厚研究室の調査によると喫煙者の高校3年生(男)75.7%が自販機、49.8%がコンビニでタバコを購入しています。日本には62万台のタバコ自動販売機が設置され(人口が日本の2倍、国土が26倍のアメリカの自動販売機数は15万台)、コンビニでも年齢確認がほとんどされないまま未成年へのタバコの対面販売が続いています。

 鳥取大学尾崎研究室の調査では喫煙経験者の割合は中学一年男1996年29.9%/2000年22.5%, 女16.7%/16.0%, 高校3年生では1996年55.6%/2000年55.5%, 女1996年38.5%/2000年36.7%となっています。 そのうち20本以上吸う喫煙者が 中一男1996年4.5%/2000年2.2% 女2.2%/1.7% 高校3年生では男12.9%/16.1%、女6.1%/7.8%です。幸いにも全体的には喫煙経験者が減少傾向にあるものの、残念ながら一日20本以上吸う中高生"ヘビー・スモーカー"は増加傾向にあります。これはまさしく一般喫煙者と同様の傾向が中高生にも蔓延しているといえるのではないでしょうか。尾崎研究所の調査結果から試算すると、一日20本(一箱)以上吸う中高生は212,850名、平均10本吸う中高生を1,637,400名と推計できます。これをもとにすると、中高生だけで年間3億7,652万箱消費しており、一箱270円とすると1016.6億円の売り上げとなります。中高生だけではなく高校卒業後20歳まで喫煙は法律で禁じられていますからおそらく2000億円近いタバコが未成年者によって消費されていることになります。定価270円(定価280円でも同じ)のタバコの170.69円が税です。(内訳は国税78.92円:たばこ税62.52円/たばこ特別税16.40円、地方税78.92円:道府県たばこ税19.38円/市町村たばこ税59.54円、消費税12.85円)この数字に基づくと中高生が納めたたばこ税は642.7億円となります。

 鳥取大学の研究室による数字が国として相応しくないのなら、警察庁の数字補導された未成年者の数字2004年度291,518名、2003年261,604名、2002年231,775名から考えてみましょう。補導された者ひとりがたまたま興味本位で一箱購入して喫煙したとしても2004年72,879,500円, 2003年65,401,000円,2002年57,943,759円が未成年者からの売上であり、補導者が一日20本(一箱)喫煙していたこと旨の"自白"を警察が採用するのであれば、2004年だけでも287.3億円が未成年者補導者からの売上であり181.6億円が補導された未成年からの税収であることが、国(警察庁)の数字によって確定することになります。いずれにしても後述するたばこ事業法:安定収入の観点からは、中高生喫煙者も補導された未成年者も、税収安定に寄与する納税者となってしまいます。ちなみに平成16年度たばこ税税収総額は国8980億円、地方1兆1361億円、たばこ特別税は2,356億円、税総額は2兆2,697億円です。

 私は"納税義務のないこどもへの返納"といった議論をするつもりはありません。ただWHOタバコ枠組条約を批准したわが国は行政府も立法府も一丸となってタバコ問題に取り組まなければなりません。"納税義務のないこども"からの税収部分を財源にして"こどもを喫煙から守る"さらには"受動喫煙の問題"などのアクションを取るべきではないでしょうか。これは国会でも今後とも主張していきたいと考えています。わたしは、そういう思いからも(わが国でたばこ規制としての初めての国内法)「健康増進法」と(公衆衛生史上初の国際条約である)「WHOタバコ規制枠組み条約」を、政治生命を賭けてあと押ししていきたいとおもいます。

たばこ事業法

 そのためにはまず、たばこ事業法について述べなければなりません。たばこ事業法は以外と新しく1984年にできました。たばこ事業法には「この法律は、たばこ専売制度の廃止に伴い、製造たばこに関わる租税が財政収入において占める地位等にかんがみ、製造たばこの原料用としての国内産の葉たばこの生産及び買入れ並びに製造たばこの製造及び販売の事業等に関し所要の調整を行うことにより、我が国たばこ産業の健全な発展を図り、もって財政収入の安定的確保及び国民経済の健全な発展に資することを目的とする」と規定し、たばこの増産と税収確保を見込む立場をとっています。

中国煙草専売法とたばこ事業法

 1984年は専売公社を株式会社(日本たばこ)化した年です。そもそも専売公社の株式会社化に際してできたたばこ事業法はいわゆる先進国にはありません。よく似た法律は中国の煙草専売法です。中国は改革開放の中、たばこ産業も私有化が認められましたが、1983年以来の財政赤字を補う手段としてタバコ専売が考えられ1991年に煙草専売法、97年に煙草専売実施条例が導入されました。タバコ専売による税収も1988年200億元だったものが、1997年には900億元にも達しており、国家財政の10%以上の税収をタバコ税で得るに至りました。中国の煙草専売法は「たばこの製造・販売を国家が一元管理し、たばこ税の増大を図ることを狙い」とし、みごとにその目的を達しています。たばこ事業を国営化に集約した中国の煙草専売法と国営企業専売公社を民営化する際に財務省がつくったわが国のたばこ事業法が瓜二つというのはどうみても奇異な感じはいなめません。

納税を目的とする株式上場企業

 たばこ事業の株式会社に公的資金を注入して公的独占企業(特殊法人)(ひとを創ってその根拠法に税収確保を掲げるのであれば至極合理的なのですが、専売公社を株式会社化したときに中国の煙草専売法に準じたたばこ事業法をつくる。さらにそのJTは1994年に株式を東京証券取引書に株式を公開しています。経営学の教科書にのっている株式会社の目的は「株主の利益の最大化を図ること」であって「税収確保を目的とする」株式会社などきいたことがありません。
 本来株主の利益と納税とは構造的に利益背反します。それゆえに企業は許されるあらゆる手を使って節税に知恵を絞らなければなりません。もしニューヨーク証券取引所の株式上場企業が「納税」を目的に掲げると、株主代表訴訟の対象となるかでなければジョークです。
 そもそも2004年3月31日現在、国(財務大臣)がJT株の64.52%を保有する大株主です。西武電鉄の株を持ち過ぎた堤オーナー上場の違反であればJTは大丈夫なのでしょうか。東京証券取引所にきいてみたいところですが、その東京証券取引所の理事長自体が財務省事務次官の重要な天下りポストです。インサイダー取引ということばがありますが、国際社会からみた日本はどのように映っているのでしょうか。

中国と財務省の共通点

 欧米にもタバコに関する法律があります。ただ欧米諸国におけるたばこ関連の法律はたばこ広告や販売規制であり、タバコ自体にかける税も増税を目的とするものではなく、重税によって消費を抑制することを目的としたたばこ税です。日本は欧米先進国型をいくのか、中国型をいくのか。タバコを徴税の道具と考えるのか、たばこを健康面から考えるのか。中国政府と日本の財務省がおなじような結論をだすことの最大の理由は"どちらも選挙の洗礼を受けない"からではないでしょうか。よその国のことはともかくも、財務省・国税当局が税収を考えることはあたりまえのことであり、"未成年からの非納税"を考える動機は徴税担当者にはありません。だた、国としてタバコからの税収とタバコを原因とする医療費の増大や人的ロスなどをあわせて考えると、直線的にタバコ事業からの徴税に邁進することが日本にとってよいこととはいえません。わが国が"タバコ"においてWHOの理念の方向に進むには、選挙の洗礼をうけた政治家、政治主導しかないのでしょうか。後述しますが、実はWHOタバコ規制枠組条約にしても実は強力な政治主導リーダーシップのもとにその実現にこぎ着けました。

健康増進法

 次に、健康増進法ですが「学校、官公庁施設等多数の者が利用する施設を管理するものは、受動喫煙を防止するために必要な措置を講ずるよう努める」とする「受動喫煙の防止」を定めています。この法律は国内法で初めてのたばこ規制の法律です。閣内不一致ということばがありますが、国内法において財務省主導、税収に主眼をおいたたばこ事業法と厚生労働省主導、国民の健康に主眼をおいた健康増進法の論理矛盾は誰も眼にもあきらかです。
 わが国は国内法の矛盾をどのように解決していくのか、おそらく評論家的もしくは政治学的には「たばこ事業法と健康増進法の矛盾をWHOタバコ規制枠組条約の流れにそって解決することになる、従って、たばこ事業法が健康増進法WHO条約に押しきられて、結果、受動喫煙やこどもの喫煙の問題が解決する」というシナリオを予想することができます。ただ税は間違いなく国家の根幹であり、国の財布を握ってきた財務省の論理がそう簡単に国際潮流に流されるとは考えません。
 一方、厚生労働省は自分のはいっている合同庁舎の厚生労働省部分は全階禁煙を実施していますが、同じビルにはいっている内閣府と環境省は従来のままです。厚生労働省が所轄する全国各地の厚生年金会館でも受動喫煙を防止するための必要な措置はとられていません。またWHOタバコ規制枠組み条約の"窓口"は外務省です。外務省をあえて枠組み条約の窓口としたのは「条約を結ぶまでが自分達の仕事であり後は各省庁の仕事」という認識が外務省には強く感じられるからです。
 健康増進法の所轄厚生労働省はともかくも教育を所轄する文部省や少年非行を所轄する警察庁、地方自治体を所轄する総務省などの他省庁が「たばこ規制条約」の理念を、財布を握られている財務省を相手に身体を張って遂行できるかどうかも疑問です。特に総務省の場合、国のたばこ税の25%は自動的に地方交付税として自分たちの財布に入ってきます。そもそも総務省は旧自治省ビルの立て替えの際には、にほんタバコ本社ビルに仮住まいしていました。
 霞ヶ関行政当局の力関係に委ねていると、健康増進法・WHO枠組み条約の理念は、財務省・たばこ事業法、さらに言えば国の根幹をなす税の力に押し切られることになりましょう。タバコの問題は、我々政治家が政治生命を賭けて取り組んではじめて解決するテーマではないでしょうか。おそらく日本の進む方向は、国際社会もみています。

WHOタバコ規制枠組条約

 さて最後にWHOタバコ規制枠組み条約です。そもそもこの条約自体、世界のタバコを国際条約で規制するという史上初画期的な試みです。もちろん、世界中の巨大なタバコ産業タバコ・メジャーを"敵に廻す"ことも覚悟の上でとられた戦略です。WHOタバコ規制枠組条約はひとえに1998年WHO事務局長に着任したブラントランド氏の強力なリーダーシップの賜物といっても過言でありません。まずブラントランド氏の経歴にふれたいと思います。

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グロ・ハルレム ブルントラント(Gro Harlem BRUNDTLAND)世界保健機関(WHO)事務局長。元ノルウェー首相。女性。1939年4月20日オスロ生まれ。ノルウェーの小児科医出身の政治家。幼少時代の一時期を米国、カイロなどで過ごす。オスロ大、米ハーバード大卒。74-79年環境相。77年国会議員。81-92年労働党党首。1981年に同国で女性初、かつ最年少の首相に就任。98年86-89年、90-96年と計約10年間にわたり首相を務める。96年、世代交代促進を理由にノルウェー政界を引退。98年7月、世界保健機関(WHO)執行理事会で事務局長に就任。
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 ブラントランド氏は政治家中の政治家です。98年ブラントランド氏は着任と同時にWHOの組織改革に取組みました。残念ながらその前任の事務局長は日本人の医学者でした。おそらくこの日本人の医学者氏がWHO事務局長としてなした仕事とブラントランド氏の仕事を比較すること自体失礼にあたるように思えます。ブラントランド氏はWHOに赴任早々TFI: Tabacco Free Initiative (たばこのない世界構想)を組織し「たばこ規制なしではたばこによる死者が2030年に世界中で年間1000万人に達する」との予測を出して、世界規模で規制することの必要性を訴え、5年後の2003年5月での条約採択を最終目標とした綿密な予定を公表しました。

 タバコ・メジャーからの圧力、タバコ・メジャーをかかえる先進国、葉たばこの生産国である途上国、たばこ消費マーケットとされる途上国との調整の問題や、広告規制と表現の自由との問題を抱えつつも、2003年2月WHO 加盟171か国による政府間交渉委員会の最終日に合意、5月世界保健総会で正式採択されました。任期1期5年の在任期間中陣頭指揮を取ったブラントランド氏はこの合意に際して「国際保健の歴史上画期的であり、世界の人々すべての健康にとって非常に大きな一歩である」と述べています。

 繰り返しとなりますが、わが国において「たばこ事業法と健康増進法の論理矛盾をブラントランド氏の枠組み条約の流れに添って解決する」という流れは理想ですが、霞ヶ関主導ではおそらく無理です。ブラントランド氏同様選挙の洗礼を受けた政治家の仕事ではないでしょうか。さらにいえば、どのような政治家を選ぶか、有権者の皆さんの役割ということになるのではないでしょうか。そういう意味で政権交代にもかかわるような大きな意味合いが、"たばこ問題"には"包括"されていると私は考えます。

おわりに

 ブラントランド事務局長は任期5年を目一杯活用して「WHOたばこ規制包括的枠組条約」すばらしい成果を挙げました。タバコ・メジャーや生産国、消費国の思惑、世界中の既得権益を相手に廻して計画どおり5年間で条約を仕上げた実績は、まさしく、言うは易く行うは難し、想像を絶するものがあります。おそらく彼女が組織したチーム(TFI:タバコ・フリー・イニシアティブ)はすばらしいスタッフに恵まれたことでしょう。しかし一人の優れたリーダーがどれだけスタッフを勇気づけ、やる気や能力を引き出したことでしょうか。私はブラントラント氏のリーダーシップとTFIチームの実績に心から感服し敬意を表したいとおもいます。ただ優れたものは尊敬するだけでなく、優れたものから学ぶことは重要です。98年から2003年までのブラントラント戦略TFIの分析をはじめています。次回、加藤尚彦国会議員白書2005では、ぜひともその成果についてもご報告したいとおもいます。

立法府データバンク(たばこ関連データ)

第159回国会
たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(条約第17号)に関する資料(平成16年3月)

衆議院法制局

ISSUE BRIEF
たばこ規制をめぐる内外の動向
国立国会図書館(2003.7.25)


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1 「国家予算」と「国家決算」

2 国会法74条とリナックス
 (質問という権利)


  
※国会法全文掲載

3 国会法の”システム”と”will”

4 タバコ問題 :WHOタバコ枠組条約と政治家の役割

質問趣意書・第159回国会

未成年者の喫煙と禁煙補助剤およびガムタバコに関する質問主意書

平成十六年六月十五日提出 質問第一九六号

平成十六年七月六日受領答弁 第一九六号


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