文部科学オピニオン・コラム 6


教育と財政論

 国と地方財政の三位一体改革が叫ばれています。(そもそも三位一体とは、国の補助金の削減、国から地方への税源移譲、地方交付税改革を一体で行い、国と地方の税財政関係を抜本的に改革することとされています。)三位一体改革の流れの中で、義務教育費の国庫負担の削減が進もうとしています。義務教育費の国庫負担削減には反対です。教育は国の根本です。特に義務教育は国が責任を負うべきもっとも大切な仕事のひとつです。教育の内容については地方や地域での独自性があってしかるべきです。(であるからこそ地域に根ざしたコミュニティ・スクール)教育における国の立場は「金を出して口は出さない」であるべきです。

 過去20年にわたって教育分野への国の予算は急激に落ち込んでいます。その結果として国民総生産中に占める公教育支出はOECD主要五か国中最低となっています。わが国の資源は人以外ありません。特に義務教育はその効果が20年、30年の後に現れる重要施策であるからこそ、わが国は、その責任が国にあることを掲げ、戦後経済発展の原動力を担うことができたのではなかったでしょうか。それは憲法第二十六条(すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する)に唱われているはずです。

 義務教育は国際化、情報化社会にあっ人間ひとりひとりの基本的人権に深く係わってきます。もとより私は中央集権型の教育は正すべきとの考えから地方主導の教育を横浜市会議員当時より訴えてきました。それは教育論としての話であって財政論とは切り離して考えるべきです。

 地方財政法という法律があります。

■地方財政法

(この法律の目的)

第1条 この法律は、地方公共団体の財政(以下地方財政という)の運営、国の財政と地方財政との関係等に関する基本原則を定め、もつて地方財政の健全性を確保し、地方自治の発達に資することを目的とする。

(地方財政運営の基本)

第2条 地方公共団体は、その財政の健全な運営に努め、いやしくも国の政策に反し、又は国の財政若しくは他の地方公共団体の財政に累を及ぼすような施策を行つてはならない。

2国は、地方財政の自主的な且つ健全な運営を助長することに努め、いやしくもその自律性をそこない、又は地方公共団体に負担を転嫁するような施策を行つてはならない。

<中略>

 第10条 地方公共団体が法令に基づいて実施しなければならない事務であって、国と地方公共団体相互の利害に関係がある事務のうち、その円滑な運営を期するためには、なお、国が進んで経費を負担する必要がある次に掲げるものについては、国が、その経費の全部又は一部を負担する。

1. 義務教育職員の給与(退職年金及び退職一時金並びに旅費を除く)に要する経費

2. 義務教育職員の共済組合の長期給付に要する経費(共済組合の長期給付に要する追加費用に係る経費を除く)

3. 義務教育諸学校の建物の建築に要する経費

4. 生活保護に要する経費

5. 結核及び感染症の予防に要する経費

6. 臨時の予防接種並びに予防接種を受けたことによる疾病、障害及び死亡について行う給付に要する経費

7. 精神保健及び精神障害者の福祉に要する経費

8. 麻薬取締員並びに麻薬、大麻及びあへんの慢性中毒者の医療に要する経費

9. 身体障害者の更生援護に要する経費

10. 婦人相談所に要する経費

11. 一知的障害者の援護に要する経費

12. 老人保健事業、老人の養護委託及び葬祭並びに養護老人ホーム及び特別養護老人ホームに要する経費

13. 介護保険の介護給付及び予防給付並びに財政安定化基金への繰入れに要する経費

14. 妊産婦及び乳幼児の健康診査、児童相談所、児童一時保護所、未熟児、身体障害児及び骨関節結核その他の結核にかかっている児童の保護、児童福祉施設並びに里親に要する経費

15. 児童手当に要する経費

16. 国民健康保険の事務のうち介護納付金の納付に関する事務の執行並びに国民健康保険の療養の給付並びに入院時食事療養費、特定療養費、療養費、訪問看護療養費、特別療養費、移送費及び高額療養費の支給並びに老人保健医療費拠出金及び介護納付金の納付に要する経費

17. 原子爆弾の被爆者に対する介護手当の支給及び介護手当に係る事務の処理に要する経費

18. 重度障害児に対する障害児福祉手当及び特別障害者に対する特別障害者手当の支給に要する経費

19. 児童扶養手当に要する経費

20. 職業能力開発校及び障害者職業能力開発校の施設及び設備に要する経費

21. 家畜伝染病予防に要する経費

22. 民有林の森林計画、保安林の整備その他森林の保続培養に要する経費

23. 森林病害虫等の防除に要する経費

24. 国土交通大臣が定める特定計画又は国土調査事業十箇年計画に基づく地籍調査に要する経費

25. 盲学校、ろう学校及び養護学校への就学奨励に要する経費

26. 公営住宅の家賃の低廉化に要する経費

 地方財政法の第10条に「国がその経費の全部又は一部を負担するもの」として26項目が列挙してありますが、義務教育費に関しては(第4項からはじまる社会保障関係に先立って)、いの一番に国の負担を唱っています。義務教育における国のあるべき姿は「金は出すが口は出さない」ではないでしょうか。(教科書検定制度についてここで述べることはいたしませんが)検定制度の許、財政論で義務教育を語ることは「金は出さないが口を出す」ということに繋がらないでしょうか。

 財政論で教育を語ることは、義務教育に止まらず国立大学の国立大学法人化、公立大学の公立学校法人化、私立大学の私学助成金の削減などを通じて、高等教育の現場でもすすんできています。その結果大学の現場ではどのようなことが進んでいるのか。ここでは千葉大学の例を掲載させていただきます。


2004.11.11

千葉大学の財務状況

I. 大学全体の予算の推移(平成15〜17年度)

(1) 収入予算額(一般会計、病院会計分;外部資金会計は除く)

平成15年度 429.4億円[±0.0億円;±0.0%](H16に対応する歳出決算額)

平成16年度 426.6億円[△2.8億円;−0.7%]

平成17年度 422.8億円[△6.6億円;−1.5%](自己収入をH16と同額とした場合)

(2) 運営費交付金額

平成15年度 184.9億円[±0.0億円;±0.0%](自己収入をH16と同額とした場合の対応額)

平成16年度 182.1億円[△2.8億円;−1.5%]

平成17年度 178.3億円[△6.6億円;−3.6%](概算要求額)

<註1> 平成16年度の減額の内訳は、非常勤講師経費分(3.6億円)、教育研究基盤校費分 (1.9億円)、法人化対応経費分(4.3億円)である。見かけ上2.8億円の減となっているのは、人件費が増加したためである。

<註2> 平成17年度の減額(H16比3.8億円)は、効率化係数1%、病院の経営係数2%、退職金額の減に伴うものである。

(3) 物件費支出予算額

平成15年度 174.6億円[±0.0億円;±0.0%](H16に対応する歳出決算額)

平成16年度 164.8億円[△9.8億円;−5.6%]

平成17年度 162.2億円[△12.4億円;−7.1%](H16より2.6億円減として計算)

<註3> 人件費(標準教員数分;退職金を含む)、借入金償還額、共済・保険費は、効率化係数の対象外と聞いているので、物件費のみを対象とした。

<註4> 平成16年度の減額の内訳は、上記<註1>参照。

<註5> 平成17年度の減額(H16比2.6億円)は、効率化係数1%および病院の経営係数2%に

伴うもので、その算出はおおよそ次の通りと思われる。

人件費を除く一般会計分(約60億円)×効率化係数(1%)=約0.6億円

借入金償還額・人件費を除く病院経費(約100億円)×経営係数(2%)=約2.0億円

<註6> 平成16年度の物件費の内訳は、次の通り。

 非常勤職員等給与=27.6億円 ; 病院物件費=98.1億円 ; 学部等物件費=39.1億円

 

U. 大学内での予算配分の推移(平成15〜17年度)

(1)各部局へ配分する教育研究基盤校費相当分

平成15年度 41.1億円[±0.0億円;±0.0%]

平成16年度 34.1億円[△7.0億円;−17.0%]

平成17年度 32.9億円[△8.2億円;−20.0%]

<註7> 平成16年度の減額は、弁護士・会計士費用等の法人化に伴う費用を、教育研究基盤校費相当分から捻出しなければならないため。

<註8> 平成17年度の減額(H16比2.6億円)は、効率化係数1%および病院の経営係数2%に伴うもので、その算出根拠は次の通り。

人件費を除く一般会計分(約60.0億円)×効率化係数(1%)=約0.6億円

<註5>の病院の経営係数に伴う減額分の内の教育研究基盤校費相当分からの負担額=約0.6億円

<註9> 上記病院の経営係数に伴う減額分の内の教育研究基盤校費相当分からの負担額は、<註5>で求めた2.0億円を、<註6>にある病院物件費(98.1億円)と学部等物件費(39.1億円)で比例配分することにより算出した。

 

V. 部局内での予算配分の推移(平成15〜17年度)

(1) 理学部に対する配分額

 平成15年度 1.80億円[±0.00億円;±0.0%]

 平成16年度 1.43億円[△0.37億円;−20.6%]

 平成17年度 1.36億円[△0.44億円;−24.2%]

<註10> 上記の額は、一度部局に配分された額の中から本部に振替を行った後の、理学部への実質的な配分額である。

<註11> 平成16年度の減額は、コンピュータ経費、銀行手数料、労働安全衛生法見合いの維持費等の法人化に伴う費用を、部局配分額の中から捻出しなければならないため。

<註12> 平成17年度の減額(H16比0.07億円)は、U、(1)とV、(1)の減額割合から算出を行った。

(2) 理学部の中央経費

 平成15年度 1.09億円[±0.00億円;±0.0%]

 平成16年度 1.00億円[△0.09億円;−8.3%]

 平成17年度 1.00億円[△0.09億円;−8.3%]

<註13> 理学部の中央経費は、部局総経費の約70%を占めているが、かなりの部分が光熱水量費である。また法人化後は、部局の施設維持管理費、施設修繕費、実験施設等の点検費を、各部局の中央経費から捻出しなければならない。このため、部局の中央経費はほとんど節約することができない。そこでH17の部局中央経費は、H16と同額とした。

(3) 理学部における学科配分額

 平成15年度 0.71億円[±0.00億円;±0.0%]

 平成16年度 0.36億円[△0.35億円;−49.3%]

 平成17年度 0.29億円[△0.42億円;−59.2%]

<註14> 平成16年度から、学部長裁量経費(0.07億円)を新設したため、学科配分額の計算は次の通りである(V、(1)〜(3)参照)。

 学科配分額(0.36億円)=部局配分額(1.43億円)−中央経費(1.00億円)−学部長裁量経費(0.07億円)

(4) 平成16年度の学科予算の現状

1) A学科の例 (教員数30名、学部学生数約200名、修士学生数約50名)

   配分額=743万円 ; 電子ジャーナル負担金=1125万円、パート費用=260万円

    ⇒ 743−(1125+260)=−642万円 i.e. 642万円の赤字

2) B学科の例 (教員数22名、学部学生数約170名、修士学生数約50名)

   配分額=793万円 ; 電子ジャーナル負担金=657万円、パート費用=100万円

    ⇒ 793−(657+100)=36万円

3) C学科の例 (教員数21名、学部学生数約210名、修士学生数約50名)

   配分額=572万円 ; 電子ジャーナル・冊子体負担金=697万円、パート費用=110万円

    ⇒ 572−(697+110)=−235万円 i.e. 235万円の赤字

(5) 平成17年度の学科予算の予測

1) A学科 : 配分予想額=599万円 → 平成16年度比△144万円[−19.4%] i.e. 786万円の赤字

2) B学科 : 配分予想額=639万円 → 平成16年度比△154万円[−19.4%] i.e. 118万円の赤字

3) C学科 : 配分予想額=461万円 → 平成16年度比△111万円[−19.4%] i.e. 346万円の赤字

<註15> 上記の配分予想額は、各学科への配分比率がH16と同じとして算出した。

 

W. まとめ

(1) I〜Vの結果から分かること

1) 法人化前(平成15年度)と法人化後(平成16年度)との比較

【見かけの減額率と現実の減額率】

 ・ 千葉大学の収入は、−0.7%(△2.8億円)のように見える[I、(1)]。

   また千葉大学への運営費交付金額は、−1.5%のように見える[U、(2)]。

 ・ 理学部の学科配分額は、−49.3%になっている[V、(3)]。

【減額率が拡大する仕組み】

(i) 文部科学省から千葉大学への配分減

 平成16年度の収入[426.6億円;I、(1)]の中には、平成15年度には各大学が支払い不要だった共済・各種保険費(25.3億円)が含まれているので、これを引くと−6.54%となる。

(ii) 千葉大学内での各部局への配分減

 法人化に伴う費用の一部(弁護士・会計士費用等)を、教育研究基盤校費相当分から捻出しなければならないため、各部局への配分額は−17.0%となる[U、(1)]。

(iii)理学部内での各学科への配分減

 法人化に伴う費用の一部(銀行手数料、労働安全衛生法見合いの維持費等)を、大学本部において措置するため、一度学部へ配分してから大学本部に振り替える額が44.1%増加している。したがって、大学本部への振替後の理学部の配分額は、−20.6%となる。

[V、(1)]。

 一方、理学部の中央経費は部局総経費の約70%を占めているが、<註13>で述べたように、ほとんど節約することができない[V、(2)]。したがって20.6%の配分減は、すべて学科への配分額(部局総経費の約30%)にしわ寄せがくることになり、結果として−49.3%となる。

2) 効率化係数(1%)・経営係数(2%)が導入される前(平成16年度)と後(平成17年度)との比較

【見かけの減額率と現実の減額率】

 ・ 千葉大学の収入は、−0.8%(△3.8億円)のように見える[I、(1)]。

   また千葉大学への運営費交付金額は、−2.1%のように見える[U、(2)]。

 ・ 理学部の学科配分額は、−9.9%になっている[V、(3)]。

【減額率が拡大する仕組み】

(i) 文部科学省から千葉大学への配分減

 <註5>のように、平成17年度の物件費予算は、平成16年度比−1.5%(△2.6億円)である[I、(3)]。

(ii) 千葉大学内での各部局への配分減

 効率化係数(1%)・経営係数(2%)が導入されたための影響は、平成16年度比−3.0%

(△1.2億円)と予想される[U、(1)]。

(iii)理学部内での各学科への配分減大学本部への振替後の理学部の配分額は、−3.6%と予想される[V、(1)]。

 しかし、W、(1)、1)、(iii)で述べたように、部局総経費の約70%を占める理学部の中央経費はほとんど節約することができない[V、(2)]。したがって3.6%の配分減は、すべて学科への配分額(部局総経費の約30%)にしわ寄せがくることになり、結果として−9.9%となる[V、(3)]。

(2) 教育・研究の現場で起こっていること

 V、(4)で見たように、千葉大学理学部の各学科では、平成16年度においてさえ、当初予算配分時において赤字であり、教育のために必要な紙代・印刷代さえ措置することができていない。また冷暖房も節約しているため、夜間に研究室で研究を行っていると風邪をひきかねない状況である。

 この上さらに、平成17年度に効率化係数(1%)・経営係数(2%)が導入されることになれば、教育研究の遂行に大きな支障を生ずることは明白である。

(出所:千葉大学運営・経営情報センター事務局)


 無駄使いは決して奨励するものではありませんが、大学の研究室でコピー代や冷暖房費の削減を気にしながらほんとうに研究がすすむのでしょうか。財政論で高等教育を語ると「研究費が欲しければ自分で(企業などから)とってこい」ということになります。確かにアメリカなどの大学ではリサーチ・オリエンテッドと銘打ってリサーチ(調査)を企業などから請け負うことも少なくありません。ただアメリカでは大学等の研究者に寄付することに対する税制優遇の仕組みが完備されているからこそ、企業や個人の寄付が定着し、さらには「優れた研究への寄付を目的とする」巨大な基金がありえます。三位一体とは国の補助金の削減、国から地方への税源移譲、地方交付税改革を一体で行うことです。義務教育ではないという意味で100歩譲って、財政論で大学教育を語るのであれば、少なくとも三位一体の地方交付税改革の部分に『寄付金における(アメリカ並み)税制改革』が加わらなければ、研究費が確保できる訳もありません。学問の世界は国境の意識は希薄です。研究者が経費削減を強いられて、かつ研究費のために企業廻りをしなければならない環境で、学問や研究の国際競争力がつくのでしょうか。さらには学問をすべて競争力すなわち力の論理で測ってよいのでしょうか。特に人文科学や基礎科学に競争力の論理が相応しいのでしょうか。例えばアムール川流域の文化研究、星の一生の研究、あるいはバッハとモーツアルトの旋律の研究などは俗世の金銭感覚から遠いからこそ学問としてありえるのではないでしょうか。

 日本のプロ野球から優秀な選手はどんどんメジャーリーグを目指しています。わが国の頭脳流失が言われて久しいですが、今後ますます数多くの研究者が欧米の研究機関・教育機関に職を求めることにはならないでしょうか。

 今回は千葉大学の例を1つのケースとして紹介させていただくに留めますが『大学教育を財政論で語るべきでない』という立場から、このテーマを取り上げ続けたいとおもいます。

 

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