文部科学オピニオン・コラム 5-@


@著作権問題とアジア

●急速なインターネットの普及がもたらした著作権侵害

 知的財産権・知的所有権というものがこれからの国家戦略の使命を制する、といった論調が巷間よくなされています。わが国において知的財産権・所有権は所轄が大きく二つに分かれ、著作権は文化庁(文部科学省所轄)、その他特許権など工業所有権は特許庁(経済産業省所轄)とされています。従って文化庁を包括する文部科学委員会においては著作権は大事な柱の一つです。第159(通常)国会でも文部科学委員会で8本の法律(法改正)が質疑されましたが、その中でも著作権に関する法律改正が含まれていました。法改正の背景には、パソコンが普及し、インターネットのブロードバンド化が進み、録音録画技術が進んだという技術的なものと、国際化が進み日本の音楽がアジアの人々に受け入れられてきたという文化的なものが考えられます。アジアを重要な政治課題としてきた私にとっても著作権は避けることのできないテーマであり、ここでは著作権問題を中心に考えてみたいと思います。同時にここでは、できたての8本の法律(法改正)の中でも、著作権法を例にとって立法(法律改正)の現場をみていきたいとおもいます。(法律用語が並んで一層読み辛くて恐縮ですが、この項お付き合いいただければ幸いです。)

知的財産権・知的所有権は

1.著作権

2.工業所有権(特許権、意匠権、商標権など)

3.その他の権利(植物品種、IC回路に関する権利など)

 に分類することができます。このうち、1.の著作権関連にもトラブルが数多く起きており、訴訟などに発展しています。著作権とは「スピーチ」「論文・小説」「音楽」「ダンス」「映像」「コンピュータープログラム」などのコンテンツ(著作物)を知的な創作活動により産み出した著作者が自動的に持つもので、「他人によって無断で利用されない権利」を指します。著作権は「政府への申請・登録」などをしなくても自動的にその権利が与えられるという特徴があります。創造性のあるコンテンツを産み出すことを正当に評価し、その収益化環境を整えることこそが、わが国の文化レベルを向上させるという考えの許、ここでは論点を「著作権」に絞って考えたいと思います。

 これまでは著作権に関係する契約は一部の担当者と専門家によって、慣例・常識・口頭での約束などによって閉鎖的に履行されていました。良くも悪くも一般の人々が著作権を把握することも侵害することもあまり無かったわけです。しかし、個人が容易にウェブサイトを開設したり、パソコンを用いて様々なものを制作し、その作品を発表できたりする1億総クリエーター時代を迎えた現代においては、もはやこれまでの著作権法制度では対応できなくなりました。

 パソコンとネットが一般家庭にも普及し、容易にデジタルデータをコピーする事ができる環境は、すなわち無意識に著作権を侵害してしまう環境でもあるわけです。特に訴訟問題を巻き起こし、ニュースにもなった「Winny」などのファイル共有ソフトに関する問題などはまだ我々の記憶に新しいものです。

 世界中に100種類以上もあると言われるファイル共有ソフトとは、多少の仕組みの違いはあれ、個人が有している音楽データや映像ファイル、或いはその他のデータを共有し、ネットワーク上の他のユーザーからアクセスが可能な状態とするものです。そして他のユーザーが持つデータをダウンロードしたり、お互いが欲しいデータを交換しあったりするというのが共有ソフトの基本的な仕組みです。これらの共有ソフトのユーザーは世界中にかなり存在し、実際に音楽、映画、ゲームソフト、ビジネスソフト、書籍、漫画など市販されているもののデータが無断で多数共有されており、著作権を大きく侵害しています。

 ファイル共有ソフトを使用すること自体にはなんら問題は無いのですが、自らに権利の無い著作物を無断で共有し、外部からアクセスすることが可能な環境においた時点で公衆送信権の侵害になり、著作権法に違反します。これらの問題を含め、著作権保護の強化を目的とした立法府側の対応として、著作権法の一部を改正する次のような法律案が提案されました。

第一五九回国会

著作権法の一部を改正する法律案

著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)の一部を次のように改正する。

 第二条第一項に次の一号を加える。

 二十三 国外 この法律の施行地外の地域をいう。

 第六条第二号、第二十六条の二第二項第四号、第九十五条の二第三項第三号及び第九十七条の二第二項第三号中「この法律の施行地外」を「国外」に改める。

 第百十三条中第五項を第六項とし、第四項の次に次の一項を加える。

5 国内において頒布することを目的とする商業用レコード(以下この項において「国内頒布目的商業用レコード」という。)を自ら発行し、又は他の者に発行させている著作権者又は著作隣接権者が、当該国内頒布目的商業用レコードと同一の商業用レコードであつて、専ら国外において頒布することを目的とするもの(以下この項において「国外頒布目的商業用レコード」という。)を国外において自ら発行し、又は他の者に発行させている場合において、情を知つて、当該国外頒布目的商業用レコードを国内において頒布する目的をもつて輸入する行為又は当該国外頒布目的商業用レコードを国内において頒布し、若しくは国内において頒布する目的をもつて所持する行為は、当該国外頒布目的商業用レコードが国内で頒布されることにより当該国内頒布目的商業用レコードの発行により当該著作権者又は著作隣接権者の得ることが見込まれる利益が不当に害されることとなる場合に限り、それらの著作権又は著作隣接権を侵害する行為とみなす。ただし、国内において最初に発行された日から起算して七年を超えない範囲内において政令で定める期間を経過した国内頒布目的商業用レコードと同一の国外頒布目的商業用レコードを輸入する行為又は当該国外頒布目的商業用レコードを国内において頒布し、若しくは国内において頒布する目的をもつて所持する行為については、この限りでない。

 第百十九条中「三年」を「五年」に、「又は三百万円」を「若しくは五百万円」に、「処する」を「処し、又はこれを併科する」に改め、同条第一号中「又は第百十三条第三項」を「、第百十三条第三項」に改め、「みなされる行為を行つた者」の下に「又は第百十三条第五項の規定により著作権若しくは著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者」を加える。

 第百二十条中「三百万円」を「五百万円」に改める。

 第百二十条の二中「一年」を「三年」に、「又は百万円」を「若しくは三百万円」に、「処する」を「処し、又はこれを併科する」に改め、同条に次の一号を加える。

 四 営利を目的として、第百十三条第五項の規定により著作権又は著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者

 第百二十一条中「又は百万円」を「若しくは百万円」に、「処する」を「処し、又はこれを併科する」に改める。

 第百二十一条の二中「又は百万円」を「若しくは百万円」に、「処する」を「処し、又はこれを併科する」に改め、同条第二号中「この法律の施行地外」を「国外」に改める。

 第百二十二条中「三十万円」を「五十万円」に改める。

 第百二十三条第一項中「及び」の下に「第四号並びに」を加える。

 第百二十四条第一項第一号中「一億円」を「一億五千万円」に改める。

 附則第四条の二を削る。

   附  則

 (施行期日)

第一条 この法律は、平成十七年一月一日から施行する。

 (商業用レコードの輸入等についての経過措置)

第二条 改正後の著作権法第百十三条第五項の規定は、この法律の施行前に輸入され、この法律の施行の際現に頒布の目的をもって所持されている同項に規定する国外頒布目的商業用レコードについては、適用しない。

第三条 改正後の著作権法第百十三条第五項に規定する国内頒布目的商業用レコードであってこの法律の施行の際現に発行されているものに対する同項の規定の適用については、同項ただし書中「国内において最初に発行された日」とあるのは「当該国内頒布目的商業用レコードが著作権法の一部を改正する法律の施行の際現に発行されているものである場合において、当該施行の日」と、「経過した」とあるのは「経過した後、当該」とする。

 (書籍等の貸与についての経過措置)

第四条 この法律の公布の日の属する月の翌々月の初日において現に公衆への貸与の目的をもって所持されている書籍又は雑誌(主として楽譜により構成されているものを除く。)の貸与については、改正前の著作権法附則第四条の二の規定は、この法律の施行後も、なおその効力を有する。

 (裁判所法等の一部を改正する法律の一部改正)

第五条 裁判所法等の一部を改正する法律の一部を次のように改正する。

  第九条のうち著作権法第百二十三条第一項の改正規定中「及び」を「並びに」に改める。

  理  由

 著作権制度をめぐる内外の情勢の変化に対応し、著作権等の適切な保護に資するため、専ら国外において頒布することを目的とする商業用レコードを情を知って国内において頒布する目的をもって輸入する行為等を著作権等の侵害行為とみなすこととするとともに、書籍又は雑誌の貸与について貸与権が及ぶこととし、あわせて著作権等を侵害した者に対する罰則を強化するための措置等を講ずる必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

 

 以上、「著作権法の一部を改正する法律案資料」(文化庁)より引用

今回の改正の趣旨

 著作物の保護強化を図り、「知的財産戦略」を推進するのに必要な法整備を行うことを目的とする。

改正の概要

「音楽レコードの還流防止」

 韓国においても日本語の音楽作品が販売できるように市場が開放されたケースを端緒に、アジアにおける日本製音楽の需要と人気の高まりを鑑み、日本の音楽文化を海外に普及させるため、日本国内での販売を禁止したレコードが、海外から還流しないよう措置を講ずること。

「書籍や雑誌に対する貸与権(無断で貸与されない権利)の付与」

 大規模なマンガ喫茶など、レンタルブック店が出現し、事業拡大しつつある現状を鑑み、日本の出版文化が衰退せずに発展できる環境を法的に整えるべく「書籍および雑誌」に対しても貸与権を付与すること。

「著作権侵害者への罰則強化」

 著作権侵害に対する抑止効果を高めるため、罰則を強化すること。

@「懲役刑」と「罰金刑」の上限を特許権・商標権侵害と同程度に引き上げるものとする。

懲役刑:3年以下→5年以下

罰金刑:300万円以下→500万円以下

A「懲役刑」が科された場合に、罰金刑も併科できるものとする。

 特に我が国の産業において、著作権は大きな影響を与える位置にあります。159国会開催中にも、社団法人日本レコード協会を代表幹事とした国内の音楽関係8団体から著作権に関する陳情が民主党に対してありました。その内容は、国外の指定地域での販売に限定してライセンス許可を下した音楽レコードが、日本国内に還流して安い価格で販売されることを防止する旨の法制度の創設を求めるものでした。陳情の趣旨を端的に申しますと、今回の改正は(彼らの立場から見ると)生ぬるいということではないでしょうか。

 具体的には、各レコード会社が「積極的な国際展開、諸外国との文化交流の促進、日本の音楽産業の振興」を目的に国外指定地域での販売に限定して許可を出した作品(例えば韓国を指定した場合は韓国の国内のみでの販売)が日本国内に還流することが問題視されてきており、特に法改正の概要にも紹介されたように、2004年1月からの韓国政府が第四次日本大衆文化開放として、日本語の音楽レコードの販売解禁を発表したことでクローズアップされてきています。

 アメリカとEU諸国等65ヶ国は海外で製造されたレコードの自国内への還流を防止する措置を講じており、日本のレコードが国際競争力を確保するためにも何らかの措置が必要と言われています。とくに今日の機運として、韓国を端緒としてアジア諸国における日本レコードの需要がより一層高まる可能性が見られるため、より迅速な防止措置がレコード関連団体より求められています。

 このまま措置を取らずにいては日本の音楽産業が積極的に国際展開した場合には、日本より遥かに安価なライセンスCD等が大量に国内に還流(逆輸入)される結果となり、日本の音楽産業に大きな影響をもたらすことは必至です。

 ちなみに予測される還流量としては、2007年には244万枚、2012年には1,265万枚が中国などから日本に還流してくる、とされています。また、CDは工業製品と違い原価に占める製造コストの割合がとても低いため、アジア地域で製造してもあまりコストダウンできないという点があります。さらにはアジア地域の購入者も日本本国と同じジャケット・デザインを好むため、還流商品と国内商品の見た目がほぼ同一となっていることも、還流を助長する一要因となっています。

 これらの還流に対してメーカー側としては

1. 販売地域の限定とその表示(指定許諾地域限定商品と表示)

2. 生産数量の限定(現地の需要に合わせた生産数で余剰を防止)

3. 発売日の調整(日本より1ヶ月程度遅い発売日を設定)

などの契約による措置を対抗手段として考えています。

 世界のレコード売上上位10ヶ国で還流防止措置を導入していない国は、日本、オーストラリア、メキシコだけで、特に日本は音楽輸出国にもかかわらず導入していない唯一の国です。国内で3,000円という価格で販売されているCDアルバムが、ほぼ同じ見た目で1,300円の還流品が販売されると、当然のように安い還流商品が多数売れ、音楽市場全体の売上規模が壊滅的な打撃を受けます。このままでは新しい音楽を生み出す土壌を無くしてしまいます。さらにまた、ビデオやゲームなどと異なり、CDには権利者が使用地域を制限することができる技術的手段が導入されておりません。従いましてアジア諸国等で発売されたものを日本国内で再生できないようにコントロールすることができません。

●還流を防止することは今回の法改正では困難:輸入権の確立……

 例えば韓国での販売契約を結んでいるレコード会社が現地の商社に対してCDを販売し、その会社が日本に輸出することが可能だからです。この商社とは契約をしていないため、日本に持ち込むことを禁止できません。このようなケースにおいて、日本国内への「無断で輸入をされない権利」というものを日本側が持っていれば、安価なCDが還流されることを防止できます。このような権利として提案されてきたのが「輸入権」です。

 仮にこの権利が条約などで保護されたとすると、作曲家本人がどの国にいても条約に入っている全ての国で「無断でコピーされない権利」を持つのと同様に、自分自身がどの国にいようとも、条約に入っている全ての国で「無断で輸入されない権利」を持ちますので、例えばマレーシアで作られたCDがオーストラリアに輸入されることも阻止できることになるわけです。

 このような新しい権利が用いられることは、作曲家などの権利者側からすると「合法的に作られた安いコピーが国内に流入するのを防げる」ので、非常に都合の良いものだと言えますが、輸入権の導入については、輸入権は自由貿易と消費者の権利に反するのではないかという国際的な反対意見もあります。

 現に、途上国の大半が輸入権の導入に強い難色を示しています。正式に著作権契約をした上で、安い資源と労働力を用いて価格面で競争力のある商品を製造したとしても、先進国へ輸出することができなくなってしまうためです。自由貿易の原則である「より安く作れるものが国際市場を治める」という概念に反して、輸入権の導入は保護貿易主義であり、先進国が利益を独占するための途上国いじめであるという主張が途上国サイドから出ています。一部の先進国が自由貿易を喧伝しつつも、その実情は著作権の名を借りた「非関税障壁」を創造しようとしている動きがあるのも事実です。さらにまた、フィンランドなどの先進国も、産業規模が比較的に小さいためこの影響を強く受けることが懸念され、輸入権に反対しています。

 フィンランドなどは国内にレコード産業が存在しないため、海外からの輸入に頼っています。もしこれらの海外の輸出国らがより大きな利潤を求めるあまり、輸入権を条約による国際秩序として権利行使した場合を想定すると、フィンランドへのCD輸入を全て停止し、その後フィンランド国内に子会社を設立して、その会社にのみ独占して輸入を認めます。そうすることによりフィンランド国内におけるCDの価格を自由に操作でき、たとえCDが一枚8,000円になろうともこの子会社から購入するしかなくなるわけです。

 このように「消費者がより安い製品を国際的に開かれた市場において、自由に選ぶ権利を有する自由貿易主義に反するものである」として輸入権は問題視されている面もあります。

●輸入権はあらゆるものの輸入を操作する可能性……

 輸入権が導入された際に与える大きなもうひとつの問題として、著作物のコピーの貿易だけでなく、著作物のコピーが付与されているあらゆる物の貿易が操作されてしまう可能性があるということです。例えば日本企業が中国で音楽CDや本などの著作物のコピーを制作した場合、その還流は輸入権の行使で防げますが、さらには化粧品や自動車なども以下のような手順で防ぐことができるのです。

1.ある作家にイラストやマークを描いてもらい、その絵の財産権を買い取って著作権者となる。

2.中国企業とライセンス契約を締結する際に商品にはこの絵をラベルなどとして用いなければならないという条約を盛り込む。

 こうすると、商品そのものや容器には輸入権を行使できないものにも、ラベルについての輸入権を行使することで実質的に輸入を阻止することができます。

 この理論を用いれば、あらゆる商品の貿易を操作できます。

●"きちんと"と"…"について

 もしも輸入権が国際的に導入された場合には世界のシステムに対して確実に大きな影響を与えるでしょう。著作権を"きちんと"保護しつつ、世界的に平等な新しいルールの創設が強く求められています。日本が知的財産を活用してより豊かな文化を創造するためには、より多くの人々が知的財産権に関する知識を身に付けることしかありません。ただ"きちんと"は誰にとって、きちんとなのか…。国内を差し置いて、あえて外国のために"きちんと"するのがよいとも申せませんし、国内においても立場・立場で"きちんと"具合は異なります。輸入権にかかわる2つの小見出しのところでも、あえて"…"を付加させていただいたのも、著作権の難しさ、さらには私の勉強不足をあえて"きちんと"開示させていただいた意味合いをこめて…。

 

トップページへ戻る



文部科学委員会トップへ