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5 新しい年金論:労働債権としての年金戦略
●眞のリーグ結成に向けて
近鉄・オリックス合併問題を端緒に、プロ野球"リーグ"初めてのストライキが行われ、読売・西武のオーナーが辞任し、楽天イーグルスが誕生し、さらにはダイエーのソフトバンクへの身売りまでも決まったようです。昨年、阪神タイガースが18年ぶりの優勝に湧いた頃には、おそらく誰ひとり予測できなかったことが、今年それも半年足らずの間にあっというまに起ってしまいました。
そのようなプロ野球リーグでの動きのそもそもの原因は観客動員数の低下です。プロ野球リーグに限らず、入ってくるおカネが減って出ていくおカネが増えるとどのような"リーグ"(組織)にでも起こりえる本質的な話ではないでしょうか。年金問題もそうですが、おそらく組織率の面を考えると組合"リーグ"の抱える問題も他山の石とすべきことではないでしょうか。
年金が国民的課題となっています。さまざまな議論がなされてきましたが、最終的な議論の場である国会参議院厚生労働委員会で議論を尽くさず強行採決がなされたことが、先の参院選にも大きく影響したことは周知です。ここでは年金問題を、労働組合"働く人のリーグ"のありかたからみて議論したいと思います。
目の前の生活が苦しい時代、働く人の関心事はその時の労働条件の改善などが主だったはずですし、さらにはそのために働く人のリーグを組織することが最大の関心事だった時代もあったはずです。おそらく当時、将来の生活退職後のことまで目をやる余裕はあまりなかったのではないでしょうか。ただそのような先人達のおかげもあって、現在働いている私たちは退職後の生活まで目を配る余裕も出来てきたという側面もあるのではないでしょうか、目を配ってみると、年金を任せていた役人が好き放題いいかげんなことをしていた。もっと監視をすべきだった。ということもいえるとおもいます。
働く人々の退職後の生活を支える柱は退職金と年金しかありません。まず退職金ですが、国際会計基準の導入もあって、財務諸表には"過去勤務債務"として負債の項に退職金を計上しなければならなくなりました。(そのことが財務諸表不況の一因ともされています。)つい最近までは退職金は"会社からのご褒美であり労働者は頭を下げていただく"的な考えがありましたが、企業が債務として退職金を計上するということは、働く人からみれば"過去勤務・債権"退職金は当然の権利です。
年金は(一度にはいってくる退職金よりも)退職後継続的に取得できるという意味でも、頼りになる"過去勤務・債権"です。ところが厚生年金の議論にも関わってくる話ですが、経営者サイドから見れば、年金の2階部分である企業年金にしても確定拠出型年金(働いている間、払うおカネの額が決まる年金)の導入の動きが見られます。これまでは確定給付型年金(退職後受け取るおカネの額が決まる年金)でしたから、労働者からみれば"権利を制限される"流れとなります。国際機関においても世界銀行(健全な経営を旨)は確定拠出型年金を主張しており、ILO(労働者の権利を旨)は確定給付型を主張しており、どうも世界銀行の流れが世界的にみても強いようです。
労働組合"働く人のリーグ"が「年金問題を重要視していない」とは決して申しませんが、だからといって「すっきりした年金問題解決策を提示した」という話も聞きません。今まで労働組合というと経営者?労働者という2者の関係がイメージされ、リーグの仕事は労使交渉だった、というようにも思えますが、それは手段であり、あくまで"労働者の権利拡大"が本来の目的であったはずです。その目的を達成するために、ちょっと視点を変えてみてみようというのが、ここでの主張です。
こちらの図をご覧下さい。
三位一体ではありませんが、企業は経営者、労働者、株主の三角形で表しています。の教科書などによると企業の目的は「株主の利益を最大化すること」だそうです。では企業の株主は誰でしょうか。この図によるとその答えは「機関投資家」です。機関投資家とは何でしょうか、企業名でいえば野村証券やゴールドマンサックスとかの証券会社や日本生命とか東京海上とかいった保険会社、あとは信託銀行、銀行などの金融機関のようにいわれたりします。厳密にいえば間違いです。
もっと厳密にいえばゴールドマンサックスなど金融機関に都合のよい間違いです。機関投資家とされる彼等は、クライアント(顧客)から預かったおカネを、クライアント(顧客)の代理で企業に投資するに過ぎません。では機関投資家の大クライアント(顧客)誰でしょうか。答えは「年金基金」です。したがって、機関投資家は誰かの答えは「年金基金」に他なりません。
では「年金基金って何?」という問いの答えは「年金加入者のおカネの集まり」です。「年金加入者は誰か」というと年金加入者、すなわち働く人に他なりません。従って「株主は誰か」というと「労働者」が答えとなります。もうすこし詳しくいうと「労働者の勤務債権の年金」、企業の大株主は勤務債権の集合体である年金基金と答えて間違いありません。一周廻って元の位置というフレーズがありましたが、大株主:機関投資家は年金基金であって、それは実は労働者(正確には労働者債権の集合体)です。
これが資本の論理にもとづいた大株主の正体です。経営学の神様と言われるピーター・ドラッカーの著書(1976年)「見えざる革命 年金が経済を支配する」の一部を紹介します。
しかもほとんど見過ごされていることとして、年金基金は大企業の中長期の債権の4割を保有するに至った。こうして年金基金なる機関投資家年金基金を中心とする機関投資家はアメリカ最大の所有者となるとともに、最大の債権者になった。しかも、すでに金融の教科書が教えているように、債権者の力は所有者の力に匹敵し、あるいはそれを上回る。最大の所有者、最大の債権者としての年金基金の登場は、経済史における最も驚くべき権力の移行を意味する。
資本主義はおカネこそ力です。最大の債権者・最大の保有者である年金基金は"働く人のおカネのリーグ"です。"働く人のリーグ"はこの"働く人のおカネのリーグ"をもっと活用すべきではないでしょうか。
1952年、最初の企業年金は、アメリカ最大のメーカーGMの会長チャールズ・ウィルソンがGMの従業員のための年金制度の創設をUAW(全米自動車労組)に提案したことからはじまります。当時すでにアメリカの労働組合運動において年金は重要課題になっていましたが、UAWの反応は当初きわめて冷淡なものでした。UAWはウィルソンの提案が民営の年金を目指すものであることを理解しましたが、当時はUAWもまた他の労働組合も政府による社会保障を要求していました(現在の厚生年金問題にも通じます)。さらにウィルソンの提案では、年金の運用は雇用主の責任のもとに専門家としての資金管理者に任されることになっており(金融機関=機関投資家という考えのはじまりかもしれません)、企業年金における労働組合の役割を考えていませんでした。UAWは企業年金がより多くの年金受給を望む高年組合員とより多くの現金を望む若年組合員との対立をもたらすことも懸念しました。UAWは、経営者には、そのような年金を設立することによって、企業の利益と繁栄が労働者の利益につながることを明らかにし、労働組合の闘争力を弱める動機があると考え、GMの経営者ウィルソンに反対しました。しかしウィルソンの提案はすでに増加しつつあった高年の従業員にとって魅力的なものであり、GMに世界最初の企業年金が導入されました。
ウィルソンの年金のユニークさは、従業員によるアメリカ経済そのものの所有をめざしたところにあります。
ウィルソンの法則:
1.
国債・公債(連邦債、州債)は買わない。
2.
自社株買いをしない。
3.
アメリカ経済に投資をする。
法則1.
年金基金で連邦債は買わない:やがて国が耐えられないほどの債務をおうことになり将来の年金受給額が大幅に削減されるほどの金利の低下を招くと考えました。
法則2.
自社株買いをしない:従業員はすでに"仕事"という大きなものを自社にかけています。それ以上自社一社に集中することはリスクが高いと考えました。さらには従業員の自社株買い財政的に不健全です。経営者は従業員の面倒をみるような顔をして彼等の未来の賃金である年金基金を企業自身のために使うことになりかねないと考えました。
法則3.
アメリカ経済そのものアメリカの生産と成長の能力に将来を掛けることがもっともリスクが低いと考えました。
(ウィルソンの法則違反の悪例:ウィルソンの提案から20年以上たった1975年、ニューヨーク市の職員年金がニューヨーク市債の購入に充てられ大問題になったことがあります。これはまさしく公債債権購入と自社株買い。ウィルソンの法則1と2に二重に違反したことになります)
カリフォルニア州教職員組合年金基金(カルパース)などはウィルソンの発想を踏襲し、アメリカ経済に投資し(数多くの企業に分散投資し)株主として積極的に声を出しています。
日本の働く人のリーグも機関投資家のおとなしい顧客として甘んじている場合ではありません。外資系金融機関とかいうと給料高そうですね。いってみればこれは機関投資家として企業にものをいう権利の対価かもしれません。こんな権利を金融機関に使わせるのではなく、働く人・働く人のリーグ、働く人のおカネのリーグが株主として声をあげる時代がきているのではないでしょうか。
繰り返しですが年金は労働債権、労働者の権利です。労働組合は労働者の権利の為に戦う集団であれば、これからの労働組合の最大の仕事は年金基金において主導権を取ることではないでしょうか。機関投資家などに企業へ声を出す権利(高い給料を生む権利)をだまって授けていることほど馬鹿げたことはありません。労働組合は年金基金とほとんど一心同体、よって機関投資家である自覚をもって株主の視点を加味して経営サイドにものをいうべきではないでしょうか。
こうした考え方に対しては「年金は運用が必須、運用には高度な金融工学が必要。素人である労働組合が(金融機関になりかわって)巨大な資金を運用し、株主としてモノをいうことができるのか」という問題が、提起されるはずです。
運用といっても本来難しいものではありません。おそらく運用の極意は惑わされないこと、さらに言えば"運用しないこと"かもしれません。
ウィルソンの法則を日本の場合にあてはめて、それを継続できるかにかかってくるのではないでしょうか。
日本版ウィルソンの法則
1.
国債は絶対に買わない。
2.
自社株買いをしない。
3.
日本経済に投資をする。
運用に関して、1.国債は絶対に買わない。2.自社株買いをしない。どちらも買わないことを継続するだけですから、さまざまは誘惑に惑わされず、圧力に屈しない意思をもつことが1.2.における運用の鉄則 金融工学などは全く不必要、不惑の修行が必要です。3.日本経済に投資をする、に関してですが、
東京証券取引所一部に上場する企業のうち組合の組合ともいえる連合のリストを数えたところ1394社
ありました。
日本経済に投資する。の意味は簡単です。東証上場企業の株を買うことです。運用方法も単純です。"東証全部一株株主基金"とでもいいましょうか「東京証券取引所上場企業1394社全部の株を一株(最低売買株数)ずつ買いつづけて保有する」これだけです。東証上場企業全社の株を一株(最低売買単位株)ずつ1394社分を一パッケージにして、今後、例えば99年間(一パッケージの倍数ごとに)連合に参加する組合のある企業の株を買い続け、保有しつづけることとします(退職後の給付に関して技術的なことを少しだけ述べますと、加入年次ごと(ほぼ年齢層ごと)に調整することになります。また加入者一人一人にとっては1/1394分だけ自社株買いをすることになります。また最低売買単位株の平均価格を30万円とすると、30×1394社=4億1820万円で全社株1パッケージを購入することが可能です)。
これは"東証全部株主年金基金"とでもいえるのでしょうか。この年金基金は巨大な一株株主リーグのような株主集団となるはずです。
かつてUAWは「ウィルソンはそのような年金を設立することによって、企業の利益と繁栄が労働者の利益につながることを明らかにし、労働組合の闘争力を弱める動機があるとして、ウィルソンの提案する年金に反対しました。企業の目的は「株主利益の最大化」ですから、まさしくUAWの考えは正しく、東証全部の企業の利益と繁栄が"東証全部株主年金基金"すなわち株主としての労働者と労働利益に繋がります。UAWがいう「労働組合の闘争力」というと、労使対立とかストライキなどのイメージが浮かびますが、かつてはそのようなやり方だったかもしれませんし、当時は株主の力を具体的にイメージできなかったのかもしれません。
図を働く人の立場から単純化すると、"働く人のリーグが株主総会で経営者を挟み込む"戦略を取ることができるポジショニングということです。そのようなポジション取りはより21
世紀的な労使交渉ではないでしょうか。
かつてUAWは、ウィルソンの企業年金が1.労働組合の役割を考えておらず、2.運用を専門家に任せることを考えていた、から反対したのであれば、運用を専門家に任せず、ウィルソンの法則に基づいて、労働組合の役割とすれば問題ないのではないでしょうか。
例えば、働く人のリーグのリーグである連合が連合に加盟する東証企業の一株全部株主年金基金を企画すれば、カリフォルニア州教職員年金基金・カルパース以上に証券市場にもインパクトを与える話ではないでしょうか。それは労働組合の株式市場での主導権の証ではないでしょうか。また単にインパクトだけの話ではなく、継続こそが力の根源、香港も99年間英国領の保障があったからこそあれだけ発達しました。東証株主が99年間、連合に加盟する東証上場企業株全部株を買い続け持ち続けると、宣言することで、民主導の安定した年金が構築できるのではないでしょうか。まず証券市場そのものが歓迎し、「株主利益最大化を旨とする」企業全体が歓迎し、働く人ひとりひとりが属する企業一社一社も歓迎する他ないのではないでしょうか。
●おわりに
纏めますと、年金は過去勤務債権です。年金は労働者の労働債権の総和であって、この債権は将来年金を受け取る権利(未来債権)であるだけでなく、現在も株主の権利として行使できます。よって組合活動に未来債権(年金)の潜在力を(現在の労働問題に)最大限活用できる。具体的には組合は株主権を活かす戦略:経営者を挟み込む戦略を"リーグ"の活動にとりいれて「働く人の現在と将来の権利を守る」というものです。
将来起きる熊は冬眠中も充分強い。であれば寝る熊の威を使わぬしない手はありません。"虎の威を借る狐"では所詮他力本願。こちらは起きている熊が将来目覚める熊の威を使うので自力も自力本願です。労働者の皆さん、本来自分たちの力である"年金"を活用すれば、巨大な熊のように強いことに、目覚めようではありませんか。プロ野球リーグ以上の変革が適うようにおもえてなりませんが、いかがでしょうか。
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