決算行政委員会 取り組みの基本理念・政策課題 2


2 2004年たばこ規制元年
WHOたばこ規制枠組条約と政治家の役割

 私はこの秋からはじまった第161国会から決算行政監視委員会委員となりました。立法府・国会議員の仕事は法律をつくることとともに、立法府が作った法律を行政が法律の理念・趣旨どおりに執行しているかどうかを監視することです。その意味でも私は決算行政監視委員会委員としての立場を最大限活かしていかねばなりません。立法府が監視すべきは法の執行に加えて条約があります。条約の所轄行政は外務省です。これを厳密にいうと条約を結ぶまでが外務省の仕事であって、その執行にあたっては所轄する各省庁の仕事です。外務省以外の省庁にとって"法律"は本来の仕事ですが、"条約"は(外務省がきめた)他人ごと、となりがちです。従って立法府・国会議員にとって、条約は法の場合に増して行政を監視しなければなりません。この項ではたばこ問題についてWHOたばこ規制枠組条約を通じて論じますが"たばこを条約の見地からも監視する、あるいは監視することができる!"これは政治家かとう尚彦の存在意義にもかかわる全人格的なテーマであるとともにチャンスであるとも考えています。

●2004年:たばこ問題のターニングポイント

 市会議員当時から"たばこからこどもを守る"という観点からたばこ問題をとりあげてきた国会議員として、初めて臨んだ衆議院委員会(外務委員会)でWHOたばこ規制枠組条約の批准を決める現場にも立ち会えたことはおおきな喜びであり、これからの政治活動にとっても追い風となりました。ただ「WHOたばこ規制枠組条約」は一政治家の主張や理念といった次元にとどまらず、ある意味「今後日本がどういう国をめざすのか」という本質的な部分にかかわってくる問題のようにおもえます。民主党の国会議員の立場から申し上げると「たばこ問題」は"政権交代"の争点となる問題、有権者の皆さんが投票するときの"判断基準"にもなる大きな問題だと考えています。

●未成年喫煙

受動喫煙も勿論おおきな問題ですが、ここでは未成年者の喫煙からたばこ問題を取り上げて述べたいとおもいます。こどもを中心に据えた私のたばこ問題におけるスタンスは、WHOたばこ規制枠組条約との兼ね合いで、結果として受動喫煙の解決にも繋がると考えています。喫煙と飲酒はこどもが非行に走りさらに大きな犯罪へと向かう入口です。

表リンク:喫煙・飲酒で補導した少年の状況

 まず喫煙したこどもを、ともかく地域ぐるみでおとなが諭すことが一番大切ですが、違法行為をしたこどもを警察が補導することもやむをえないと考えます。ただたばこを吸ったこどもを補導するのであれば、こどもにたばこを売ったおとなに留まらず、たばこを生産した企業も製造者責任を問われてしかるべきではないでしょうか。(こどもはまだ自分で判断できないということから未成年として選挙権も与えていないのですから、売った側、生産した側の連座制もあってよいのではないでしょうか)

 未成年の喫煙は法律で禁じられています。それにも関わらず日本では、こどもがたばこを手にできる環境があまりにも放置されています。鳥取大学尾崎米厚研究室の調査によると喫煙者の高校3年生(男)75.7%が自販機、49.8%がコンビニでたばこを購入しています。日本には62万台のたばこ自動販売機が設置され(人口が日本の2倍、国土が26倍のアメリカの自動販売機数は15万台)、コンビニでも年齢確認がほとんどされないまま未成年へのたばこの対面販売が続いています。

 鳥取大学尾崎研究室の調査では喫煙経験者の割合は中学一年男1996年29.9%/2000年22.5%、女16.7%/16.0%、高校3年生では1996年55.6%/2000年55.5%、女1996年38.5%/2000年36.7%となっています。そのうち20本以上吸う喫煙者が 中一男1996年4.5%/2000年2.2% 女2.2%/1.7% 高校3年生では男12.9%/16.1%、女6.1%/7.8%です。幸いにも全体的には喫煙経験者が減少傾向にあるものの、残念ながら一日20本以上吸う中高生"ヘビー・スモーカー"は増加傾向にあります。これはまさしく一般喫煙者と同様の傾向が中高生にも蔓延しているといえるのではないでしょうか。

 尾崎研究所の調査結果から試算すると、一日20本(一箱)以上吸う中高生は212,850名、平均10本吸う中高生を1,637,400名と推計できます。これをもとにすると、中高生だけで年間3億7,652万箱消費しており、一箱270円とすると1016.6億円の売上となります。中高生だけではなく高校卒業後20歳まで喫煙は法律で禁じられていますからおそらく2000億円近いたばこが未成年者によって消費されていることになります。定価270円(定価280円でも同じ)のたばこの170.69円が税です。(内訳は国税78.92円:たばこ税62.52円/たばこ特別税16.40円、地方税78.92円:道府県たばこ税19.38円/市町村たばこ税59.54円、消費税12.85円)この数字に基づくと中高生が納めたたばこ税は642.7億円となります。

表リンク:主な巻きタバコの税負担割合等

 鳥取大学の研究室による数字を採用することが国(税務当局)として相応しくないのなら、警察庁が喫煙で補導した未成年者の数、平成15(2003)年:542,214人、平成14(2002)年:480,598人、平成13(2001)年:437,988人から計算してみましょう。(税金の額を170円/箱で計算)たまたま興味本位で一箱購入して喫煙したとしても、平成15(2003)年は170円×542,214で9,218万円、平成14(2002)年は8,170万円、平成13(2001)年は7,456万円が法律で喫煙を禁じられた未成年者から徴収した税額です。

 さらには補導者が一日20本(一箱)喫煙していたという旨の"自白"を警察が採用するのであれば、それに基づくと平成15(2003)年は9,218万円×365=336.5億円、平成14(2002)年は298.2億円、平成13(2001)年は272.1億円が法律で喫煙を禁じられた未成年者から徴収した税収であることが確定します。

 後述するたばこ事業法のいうところの「安定した税収、安定した財政」の見地からみれば中高生喫煙者も輔導された未成年者もたばこ事業法の趣旨に寄与貢献する立派な納税者となってしまいます。

 ちなみに平成16年度たばこ税税収総額は8,980億円、地方1兆1,361億円、たばこ特別税は2,356億円、税総額は2兆2,697億円です。

未成年者喫煙禁止法第一条 満二十年ニイタラサル者ハ煙草ヲ喫スルコトヲ得ス

 未成年の喫煙は明治33年日露戦争開戦のさらに4年前第二次山県内閣当時から違法です。ただ私は(1)100年以上続けてきたこどもからのたばこ税分の返納は可能か?とか、(2)違法な喫煙からの徴税は合法か?とか(3)喫煙補導者からのたばこ税分は反則金相当として財務省所轄から警察庁所轄への振替は可能か?といった議論をするつもりは"あまり"ありません。ともかくWHOたばこ規制枠組条約を批准したわが国は行政府も立法府も一丸となってたばこ問題に取り組まなければなりません。"納税義務のないこども"からの税収部分を財源にして"こどもを喫煙から守る"さらには"受動喫煙の問題"などのアクションを取るべきではないでしょうか。これは国会でも今後とも主張していきたいと考えています。わたしは、そういう思いからも(わが国でたばこ規制としての初めての国内法)「健康増進法」と(公衆衛生史上初の国際条約である)「WHOたばこ規制枠組み条約」を、政治生命を賭けてあと押ししていきたいとおもいます。先に(3)喫煙補導者からのたばこ税分は反則金として財務省所轄から警察庁所轄への振替は可能か、としましたが、おそらくこれは検討の余地があります。道路交通法の違反者は成年・未成年を問わず反則金を国に支払わなければなりません。反則金の使い道は交通安全対策特別交付金等に関する政令(総務省所轄)で「交通安全対策経費」として限定されており、反則金の納付額は2002年度で約785億円、2001年度で約794億円です。たばこ事業者(たばこ税の直接納税者)が補導喫煙者からの売上部分の徴税分を「交通安全(等)対策経費」に対して納付する制度などの創設を、所轄の総務省と警察庁さらには財務省と検討することも有意義な政治活動だと考えます。

●たばこ事業法

 そのためにはまず、たばこ事業法について述べなければなりません。たばこ事業法は以外と新しく1984年にできました。たばこ事業法には「この法律は、たばこ専売制度の廃止に伴い、製造たばこに関わる租税が財政収入において占める地位等にかんがみ、製造たばこの原料用としての国内産の葉たばこの生産及び買入れ並びに製造たばこの製造及び販売の事業等に関し所要の調整を行うことにより、我が国たばこ産業の健全な発展を図り、もって財政収入の安定的確保及び国民経済の健全な発展に資することを目的とする」と規定し、たばこの増産と税収確保を見込む立場をとっています。

●中国煙草専売法とたばこ事業法

 1984年は専売公社を株式会社(日本たばこ)化した年です。そもそも専売公社の株式会社化に際してできたたばこ事業法はいわゆる先進国にはありません。よく似た法律は中国の煙草専売法です。中国は改革開放の中、たばこ産業も私有化が認められましたが、1983年以来の財政赤字を補う手段としてたばこ専売が考えられ1991年に煙草専売法、97年に煙草専売実施条例が導入されました。たばこ専売による税収も1988年200億元だったものが、1997年には900億元にも達しており、国家財政の10%以上の税収をたばこ税で得るに至りました。中国の煙草専売法は「たばこの製造・販売を国家が一元管理し、たばこ税の増大を図ることを狙い」とし、みごとにその目的を達しています。たばこ事業を国営化に集約した中国の煙草専売法と国営企業専売公社を民営化する際に財務省がつくったわが国のたばこ事業法が瓜二つというのはどうみても奇異な感じはいなめません。

●わが国と中国

 欧米にもたばこに関する法律があります。ただ欧米諸国におけるたばこ関連の法律はたばこ広告や販売規制であり、たばこ自体にかける税も増税を目的とするものではなく、重税によって消費を抑制することを目的としたたばこ税です。日本は欧米先進国型をいくのか、中国型をいくのか。たばこを徴税の道具と考えるのか、たばこを健康面から考えるのか。中国政府と日本の財務省がおなじような結論をだすことの最大の理由は"どちらも選挙の洗礼を受けない"からではないでしょうか。よその国のことはともかくも、財務省・国税当局が税収を考えることはあたりまえのことであり、"未成年からの非納税"を考える動機は徴税担当者にはありません。

 ただ、国としてたばこからの税収とたばこを原因とする医療費の増大や人的ロスなどをあわせて考えると、直線的にたばこ事業からの徴税に邁進することが日本にとってよいこととはいえません。わが国が"たばこ"においてWHOの理念の方向に進むには、選挙の洗礼をうけた政治家、政治主導しかないのでしょうか。後述しますが、実はWHOたばこ規制枠組条約にしても実は強力な政治主導リーダーシップのもとにその実現にこぎ着けました。

●健康増進法

 次に、健康増進法ですが「学校、官公庁施設等多数の者が利用する施設を管理するものは、受動喫煙を防止するために必要な措置を講ずるよう努める」とする「受動喫煙の防止」を定めています。この法律は国内法で初めてのたばこ規制の法律です。閣内不一致ということばがありますが、国内法において財務省主導、税収に主眼をおいたたばこ事業法と厚生労働省主導、国民の健康に主眼をおいた健康増進法の論理矛盾は誰の眼にもあきらかです。わが国は国内法の矛盾をどのように解決していくのか、おそらく評論家的もしくは政治学的には「たばこ事業法と健康増進法の矛盾をWHOたばこ規制枠組条約の流れにそって解決することになる、従って、たばこ事業法が健康増進法WHO条約に押しきられて、結果、受動喫煙やこどもの喫煙の問題が解決する」というシナリオを予想することができます。

 ただし、税は間違いなく国家の根幹であり、国の財布を握ってきた財務省の論理がそう簡単に国際潮流に流されるとは考えません。

 一方、厚生労働省は自分の入っている合同庁舎の厚生労働省部分は全階禁煙を実施していますが、同じビルにはいっている内閣府と環境省は従来のままです。厚生労働省が所轄する全国各地の厚生年金会館でも受動喫煙を防止するための必要な措置はとられていません。またWHOたばこ規制枠組み条約の"窓口"は外務省です。外務省をあえて枠組み条約の窓口としたのは「条約を結ぶまでが自分達の仕事であり後は各省庁の仕事」という認識が外務省には強く感じられるからです。健康増進法の所轄厚である厚生労働省はともかくも、教育を所轄する文科省や少年非行を所轄する警察庁、地方自治体を所轄する総務省などの他省庁が「たばこ規制条約」の理念を、財布を握られている財務省を相手に身体を張って執行できるかどうかも疑問です。特に総務省の場合、国のたばこ税の25%は自動的に地方交付税として自分たちの財布に入ってきます(そもそも総務省は旧自治省ビルの立て替えの際には、JT本社ビルに仮住まいしていました)。霞ヶ関行政当局の力関係に委ねていると、健康増進法・WHO枠組み条約の理念は、財務省・たばこ事業法、さらに言えば国の根幹をなす税の力に押し切られることになりましょう。たばこの問題は、我々政治家が政治生命を賭けて取り組んではじめて解決するテーマではないでしょうか。おそらく日本の進む方向は、国際社会も見ています。

●WHOたばこ規制枠組条約

 さて最後にWHOたばこ規制枠組み条約です。そもそもこの条約自体、世界のたばこを国際条約で規制するという史上初画期的な試みです。もちろん、世界中の巨大なたばこ産業、たばこ・メジャーを"敵に廻す"ことも覚悟の上でとられた戦略です。WHOたばこ規制枠組条約はひとえに1998年WHO事務局長に着任したブラントランド氏の強力なリーダーシップの賜物といっても過言でありません。まずブラントランド氏の経歴にふれたいと思います。

◆グロ・ハルレム ブラントランド

 (Gro Harlem BRUNDTLAND)

 世界保健機関(WHO)事務局長。元ノルウェー首相。女性。1939年4月20日オスロ生まれ。ノルウェーの小児科医出身の政治家。幼少時代の一時期を米国、カイロなどで過ごす。オスロ大、米ハーバード大卒。74〜79年環境相。77年国会議員。81〜92年労働党党首。1981年に同国で女性初、かつ最年少の首相に就任。86〜89年、90〜96年と計約10年間にわたり首相を務める。96年、世代交代促進を理由にノルウェー政界を引退。98年7月、世界保健機関(WHO)執行理事会で事務局長に就任。

表リンク:ブラントラント工程表

 ブラントランド氏は政治家中の政治家です。98年ブラントランド氏は着任と同時にWHOの組織改革に取組みました。残念ながらその前任の事務局長は日本人の医学者でした。おそらくこの日本人の医学者氏がWHO事務局長としてなした仕事とブラントランド氏の仕事を比較すること自体失礼にあたるように思えます。ブラントランド氏はWHOに赴任早々TFI: Tabacco Free Initiative (たばこのない世界構想)を組織し「たばこ規制なしではたばこによる死者が2030年に世界中で年間1000万人に達する」との予測を出して、世界規模で規制することの必要性を訴え、5年後の2003年5月での条約採択を最終目標とした綿密な予定を公表しました。

 たばこ・メジャーからの圧力、たばこ・メジャーをかかえる先進国、葉たばこの生産国である途上国、たばこ消費マーケットとされる途上国との調整の問題や、広告規制と表現の自由との問題を抱えつつも、2003年2月WHO加盟171ヶ国による政府間交渉委員会の最終日に合意、5月世界保健総会で正式採択されました。任期1期5年の在任期間中陣頭指揮を取ったブラントランド氏はこの合意に際して「国際保健の歴史上画期的であり、世界の人々すべての健康にとって非常に大きな一歩である」と述べています。

 繰り返しとなりますが、わが国において「たばこ事業法と健康増進法の論理矛盾をブラントランド氏の枠組条約の流れに添って解決する」という流れは理想ですが、霞ヶ関主導ではおそらく無理です。ブラントランド氏同様選挙の洗礼を受けた政治家の仕事ではないでしょうか。さらにいえば、どのような政治家を選ぶか、有権者の皆さんの役割ということになるのではないでしょうか。そういう意味で政権交代にもかかわるような大きな意味合いが、"たばこ問題"には"包括"されていると私は考えます。

●おわりに

 ブラントランド事務局長は任期5年を目一杯活用して「WHOたばこ規制枠組条約」などすばらしい成果を挙げました。たばこ・メジャーや生産国、消費国の思惑、世界中の既得権益を相手に廻して計画どおり5年間で条約を仕上げた実績は「言うは易く行うは難し」とよく言いますが、本当に想像を絶するものがあります。おそらく彼女が組織したチーム(TFI:たばこ・フリー・イニシアティブ)はすばらしいスタッフに恵まれたことでしょう。

 しかし一人の優れたリーダーがどれだけスタッフを勇気づけ、やる気や能力を引き出したことでしょうか。私はブラントランド氏のリーダーシップとTFIチームの実績に心から感服し敬意を表したいとおもいます。

 ただ優れたものを尊敬するだけでなく、優れたものから学ぶことが重要です。早速ですが98年から2003年までのブラントラント戦略TFIの分析を開始いたしました。次回、かとう尚彦国政白書2005では、ぜひともその成果についてもご報告したいと思います。

 


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