外務オピニオン・コラム 2ーA


A日露平和条約早期締結に向けて 
国民運動の機運をもってロシア世論を喚起すべし

我が国は「まず領土問題を解決し、次に平和条約を締結する」との主張を繰り返してきた。国会においてもこれまで16回(1951年第10回国会衆議院本会議から1995年第132国会衆参本会議)決議を出してきたが、いずれも「北方領土返還」に関する決議である。

 一方我が国には「北方領土返還には日露平和条約が必須、そのためにもロシアとの友好関係強化」との考えもある。「ソ連においては、日本の全国知事会との交流が再開したことや日本がソ連の主要な貿易・経済パートナーの地位に復帰することに日本の実業界が再び関心を示し出したことを然るべく評価している」これは1988年クラスヤルスクでのゴルバチョフ(ソ連大統領)演説の言葉である。その後も我が国はロシアの悲願である先進国サミット加盟(1997年)、モスクワサミットの開催(2006年)の実現にも協力を惜しまなかったし、国、知事会、実業界に限らずさまざまな分野でロシアとの友好関係を構築する努力がなされてきた。来年プーチン大統領の来日を控えている。そろそろ、これまでのさまざまな努力を統合し、まずは我が国おいて日露平和条約締結への機運、世論を高めることが北方領土返還を実現するためにも必要な時期にきているのではないか。

 プーチンのロシアとはどのような国か。アメリカの外交官ジョージ・ケナンが1950年シカゴ大学で述べた言葉に添ってさらえてみたい。ロシアとは「広大な無防備な平原にひろがった数世紀にわたる遊牧軍との戦闘の歴史の教訓を有する」国であり「時間と空間による強制をうけないし、あたえられた時間までにゴールが達成されねばならないという感情は見いだされない」国である。そしてロシア外交を動かしているのは「首尾一貫性」である。そのようなロシアとの交渉に臨むものは「賢明かつ長期的視点にたった政策、ロシアの政策に劣らないほど不動であり多種多様にして機略に富んだ政策によってのみ有効に対抗できることを知る必要がある」とケナンは言う。

 1950年当時から50年以上、体制として社会主義が崩壊した程度ではロシアの本質はおそらくかわらないであろう。ただし資本主義に変貌するロシアと交渉する条件として企業論論理の要素が高まったのも事実であろう。(企業であれば単年度会計すなわち時間制約の呪縛からも逃れられないだろうし、「あたえられた時間までにゴールが達成されねばならないという感情は見いだされない」ではロシアといえどもすまされない)

 我が国は50年以上もケナンのいう不動の主張として「北方領土返還」を首尾一貫いい続けてきた。戦後一貫して"領土問題は存在しない"と言い続けたロシアも、少なくとも1980年半ばからその表現に変化が見られ90年代になってから一度も"領土問題は存在しない"とはいっていない。これはロシアが発した交渉相手へのシグナルとみて間違いない。先に日本の世論・機運の高まりが必要と述べたが、おそらくこれだけでは北方領土返還を実現するには十分ではない。「ソ連の指導者が『四島すべてを譲渡してしまえ』と言ったとしたら、今の状態ならその指導者はとたんに更迭されてしまう」これは1990年北方領土問題5段階解決論を講演した際のエリチェンの言葉である。我々はロシアの世論にも訴え"ロシアの機運を高める"ことを考えるときにきているのではないか。

 我が国では「北方領土を返還すれば、シベリアの日露共同開発が進み、ロシアにもメリットある」という北方領土返還・シベリア開発のギブアンドテイクも論じられてきた。このギブアンドテイクの仮説を真と考えるのであれば、この仮説を"不動"としてロシア世論を喚起する『多種多様にして機略に富んだ方策』を実行する時にきているのではないか。

 1993年細川護煕総理大臣、B.N.エリチェン大統領が署名した東京宣言では「この問題(択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島の帰属に関する問題)を解決することにより平和条約を早期に締結をするよう交渉を継続し、もって両国間の関係を完全に正常化すべきことに合意する」と公式にかつ明確に唱っている。

 また『外交の継続性』は歴史的背景や体制の違いを問わず外交の原則であることは日露共通理解であればこそ、同じく東京宣言において「ロシアとソ連邦とが国家としての継続性を有する同一の国家であること」を我が国は確認している。であればこそ、我が国の労働界は「シベリア開発によるメリットを日露双方の労働者の雇用機会と捉える」ならばロシアの労働者にそれを訴え続けるべきではないか。我が国の産業界がビジネスチャンスと捉えるならばロシア企業にそれを訴え続けるべきではないか。また日本の教育界は「日本で学んでシベリアで働くこと」などをも念頭においてロシア留学生の受入れを訴えるべきではないか。このことはロシア世論には歓迎されよう。多様多様で既知に富んだ方策としてこのような民間外交の役割は「歓迎すべき日本と平和条約もない現実をロシア世論に認知いただくこと」にとどまるべきかもしれない。後は『外交の継続性』を共通言語とする外交当局間の問題である。ロシア世論・機運の高まりを満たすためにはロシア外交当局にも日露平和条約締結のニーズが発生し、そのためには条件である「領土問題」を解決しなければならない。ここではじめて「領土問題を不動の悲願とする」我が国と利害が一致する。あとは程度の問題である。交渉とは彼我の問題が程度の問題にまで歩みよった場合においてのみ、その余地が生じるのではないか。

 来年プーチン大統領の来日を控えているが、我が国に「一過性のロシアブーム」や「希望的観測に基づいた北方領土返還ブーム」などがおきることが北方領土返還への障害になるとさえ危惧する。プーチンをプーチン以上の不動さと交渉における長期戦も厭わない覚悟もって迎え、国会はもとより、地方自治体、労働界、産業界、教育界等々、多種多様な立場から「シベリア開発のメリット」をロシアの世論・ロシア国民にむけて首尾一貫訴え続けることが、日本の悲願である北方領土返還への近道、ロシアプーチンへの合わせ技一本となるのではないか。

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